ボスからのお呼び出し。
「短い総説を書いてくれって言われてるんだけど、草稿書いてくれないかなあ。」
「えっ、僕でいいんです?分野転向したばかりなんで、あんまり詳しくないんですが、、、」
「本当は学生に任せることになってたんだけど、あいつはいま就活で頭いっぱいだろうからさ。それにこの業界なんだかんだ言って筆頭著者は大事じゃない。就職しちゃうとあんまり関係ないだろうけど。まあ、ちょうど勉強にいいになると思うよ。」
「はぁ。。。まあ、そういうことでしたら有難く頑張ります。」
「ちょっと最近総説ばっかりでネタがないんだよね、、、なんか考えてみて。締め切り一か月後だからよろしく。」
「来月!?」
「2,3週間は延長してもらえるだろうから。心配しなくて大丈夫だよ。」
「まあ、だいたいそういうもんですけど。。。とりあえず急いで書いてみます。」
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一通り文献を読んで、まとめて持って行ったところ、パンチが弱いねえとのことでした。今やっている分野は、わかっているようで、肝心なところはほとんどわかっていないような状況なので、そのあたりを整理してみたのですが、、、まぁ確かに分野外の人にとっては読みごたえがない感じ。
「パンチ」を求めて、ほかのラボに行き、そことコラボして書くことになりました。議論はなかなか有意義でしたが、みなさんアクが強い。一つの原稿に落とし込む過程はいろいろ苦労しました。初めての共同作業。
1.締め切りを作っても守る気がない。催促しないと何も出てこない。一夜漬けでなんとかしようとする。じゃあ、書いてみるわーと言って一週間待って二段落しか出てこなかったときは、マジでどうしようかと思いましたが。。。まぁ、そういう人たちだとわかってとりかかればなんとかなります。
2.原著論文をまともに読んでない。定義があいまいでふにゃふにゃした用語を平気でぶち込んでくる。それを断定するほどのデータは論文にないでしょと突っ込むと、うちのラボの未発表データがあると返ってくる。それじゃ総説にならんではないか。英語は僕よりだいぶ上手なんだけどねえ。
3.図はコピペで何とかしようとする。承諾を得ればいいっちゃいいけど、自分の名前が入った論文なんだからもうちょっとこだわりをもってだねえ…。大体本文読まずになんで勝手に図作っちゃうわけ!?
まあまあイライラしながら、二回ほどミーティングを重ね、なんとか投稿。こういうのって、招待でもちゃんと査読が付くんですね。査読付き総説は初体験です。投稿作業とか、カバーレターとかは全部ボスが担当。日本だと全部自分でやったんだけどなあ。手間が省けていいですが。
一か月後に2人の査読コメントが返ってくる。うちのラボの担当したところに関しては問題なかったけど、コラボ先のところに関してはいくつか辛辣なコメントが。ミーティングを開くと、査読者が悪いのオンパレード。。。手間暇かけて読んでくれたんだからもうちょっと意見尊重しようよ。。。そんなむちゃくちゃなこと言ってないと思うんだけどなあ。
修正方針について合意してしばらく待ったものの、本文で特に直すところはないという無茶なことを言い出したので、結局こっちがコラボ先の文章を直すという奇妙な展開に。それを見てコラボ先がここは表現が弱い、受け入れられないとまたゴネる。だってデータないじゃんとちょっとキレ気味に言ったら、未発表データがある!とこの期に及んでのまた悪あがき。査読と戦う前にまずは身内と戦う消耗戦。疲れる。。。とはいえ、コラボ先の担当分野なのでこちらがこれ以上口をはさむわけにもいかず、ちょっと修正して再投稿。しばらくして受理通知。エディタ判断で、査読にはもう回さなかったのでしょうか?
アメリカほどじゃないですが、みんな押しが強くて、思わずこっちも強く言い返す場面がちらほら。日本とはちょっと議論の文化が違うという感じです。人によって締め切り守ったり守らなかったりはどこでもいっしょな感じですかね。日本だと、どうしてもネイティブスピーカーじゃない分、科学が輸入文化な分、コメントに対する応答は弱気になってしまいますが、「たかが一人のレビュワーのために、主張は替えられないわ。だってわかりにくくなるもの。」と平然と言ってのけるその逞しさ、すごいです。うちのボスはもう少し弱気な感じですが。。。何はともあれいい経験にはなりました。次はちゃんとした論文書かないとなあ、いつになるやらですが。