フンボルト財団の最終報告書
2年+1年のフェローシップもそろそろ終わりが近づいてきました。財団よりお別れの挨拶と最終報告書の「依頼」のメールが届いたのですが、いろいろ感銘を受けたので今回はこれを記事にしたいと思います。
・お別れの挨拶
あなたはもうすぐフェローシップを完了します。個人的にも研究的にも実りあるドイツ滞在だったでしょうか。お別れの品として、Douglas Botting著のAlexander von Humboldtの伝記を郵送でお送りします。彼は偉大な自然科学者でパトロンでもありました。
本財団はドイツ滞在中のあなたの研究活動についての詳細な報告書は求めていませんが、あなたの個人的な経験や印象をオンラインアンケートを通じて是非とも教えていただきたく存じます。外国人として、おそらくあなたはドイツ人の人生の歩き方についてより正確な見方を持ち、自国の生活や研究環境と比べることができるでしょう。あなたの観察や重要なコメントは本財団にとって興味深いものであり、将来のフンボルトフェローに役立つでしょう。また、あなたがドイツでのホスト機関とドイツでのDevelopment of your disciplineについてどのように評価しているかも教えていただければ幸いです。
一方、我らが学振(日本学術振興会)はと言いますと、外国人研究者招へい事業 募集要項 (外国人特別研究員)には、
申請者(受入研究者)及び候補者(招へいする外国人研究者)は、採用期間終了後の本会が指定する期日 までに別に定める様式によって報告書を提出すること。
また、採用者の手引きには
採用期間が終了する研究員及び受入研究者は、外特プログラムが研究の進展にどれだけ寄与 することが出来たかを確認するとともに、より良いプログラムに改善することを目的としたウ ェブ上での「プログラム評価質問票(アンケート)」に回答してください。
と書いてあるだけ、、いやまあ、全然普通なんですけど、比べちゃうとね。。。学振の報告書は3-10ページだそうで、、、なんか夏休み終わったら宿題提出だから、ちゃんと勉強しなさいよという感じですよね。フンボルト財団の方は、自信をもってあなたたちを選んだんだから、そのあたりは言わずもがなで任せてますという感じで信頼されている感じがします。
・アンケート
学振だと5分もかからないようなもので、
-どうやって学振のことを知りましたか?
-受け入れラボはどうやって見つけましたか?
-学振の特別研究員を選んだ理由は何ですか?
-研究に関する知識は十分に得られましたか?
-受け入れラボでの研究活動に満足しましたか?
-研究プロジェクトに従事することには満足しましたか?
-国際的な研究経験を得ることに満足しましたか?
-日本の研究者と共同研究する予定はありますか?
という簡素なものでした。
翻ってフンボルト財団の方は120項目を超える質問事項があるずいぶん気合が入ったアンケートでした。フンボルト財団からすると、自分たちのプログラムの自己評価や改善に使いたいということなのでしょうが、答える方も質問に答えていくことで、フンボルト財団がこのプログラムを通じてどういったことを達成したいかということがよく伝わってきました。
どうしても学振との比較になってしまうのですが、まず目的のスケールが違います。学振の方は
本プログラムは、諸外国の若手研究者に対し、日本の大学等研究機関において日本側受入研究者の指導のもとに共同して研究に従事する機会を提供するものです。
という、日本のお上らしい感じで、日本に来て研究したい外国人がいるんだから、その要望に沿って、資金を支給して機会を提供するというものです。
実際にインタビューしたことがないのでわかりませんが、一フェローシップ採用者として推測するに、フンボルト財団は、プログラムを通じて、ドイツをより良い国にしようというのが根底にあります。フンボルト財団は科学振興を通じてその目的を達成しようとしていまして、具体的な目標は、1)世界をリードするような研究者にドイツで研究してほしい、2)ドイツの研究者とネットワークを広げてほしい、3)多様なバックグラウンドを持った研究者にドイツに来てほしいになります。
なので、もちろんフンボルト財団が世界中から研究者を選びますが、逆に世界中の研究者にドイツという研究環境をアピールしようとしているわけでもありまして、そのあたりが日本の学振との違いを一番感じるところです。誰も読まなさそうな報告書は省略したり、ドイツ語学習を支援したり、家族へのサポートを手厚くしたり、ドイツをめぐるスタディツアーを組んだり、フェローシップ終了後もドイツへ来る一時滞在をサポートしたりして、研究者本位の立場に立ってプログラムを組むことにより、ドイツに良い印象をもってもらおうということですかね。そして研究者がどう思ったのかを知りたいからアンケートも詳しくなるわけです。
アンケートの質問項目もいろいろ面白かったので、ここにあげておきます。アンケートというのはこうやって作るものなのかといろいろうなされました。元は英語でして、拙訳ですみませんが。。。
ドイツへのイメージ(27)を聞いたりするところは面白かったですし、ラボ内だけでなく、ラボ外の人とどれだけ仲良くなったか、個人的に親しくなったか(18-20)、あなたのキャリア形成において、ドイツ滞在が役に立ったかなどを重視しているんだなということがわかりました。これからも付き合いたいと思うような人と何人知り合いになれた?(3)なんというのもドキッとする質問です。フンボルト財団の対応はどうでしたか(40)?フェローシップの金額は十分でしたか(39)?なんていうのは聞かれてみれば、アンケート項目としては当たり前なのですが、学振からそういう質問はほとんど聞かれることないですからね。。。
-動機
フンボルト財団の支援を受け、ドイツでの滞在をすると決めた動機について教えてください。以下の各項目の重要度を0から10で評価してください。
1.1 研究キャリアを進める
1.2 ドイツ滞在への興味
1.3 フンボルト財団の評判
1.4 人脈づくりを広げる機会とフンボルトネットワークへの加入
1.5 自身の学術的評価をあげる
1.6 ホスト研究者の素晴らしい評判
1.7 ドイツの研究環境としての素晴らしい評判
1.8 自国での限られた研究環境、機会
1.9 その他
-コンタクト
2. 以下の各項目について、知り合いの数はどれほどなのか、0から10の間で教えてください。
ドイツ滞在前
2.1 ホストラボ
2.2 ホスト機関の他のラボ
2.3 ホスト機関外のドイツの研究者
ドイツ滞在中
2.4 ホストラボ
2.5 ホスト機関の他のラボ
2.6 ホスト機関外のドイツの研究者
3. 滞在中に、今後数年交流が続くような新しい知り合いを何人作れましたか?
研究者
そのうち、フンボルティアン
あなたの意見では、滞在期間中に築いた人脈は、今後のあなたのキャリアにどれほど役立ちますか?
-共同研究の可能性
5.ホストラボと今後、学術上の共同研究をする予定はどれほどありますか?
6. すでに共同研究をすることを決めましたか?
-コミュニケーション
7. ドイツ滞在前のドイツ語の知識はどれほどでしたか? (0-10)
8. フンボルト財団の支援を受けてドイツ語のコースに行きましたか?
9. そのドイツ語のコースはどうでしたか? (0-10)
10. 現在のドイツ語の知識はどれほどですか? (0-10)
11. ホスト研究機関で用いた主な言語はなんでしたか?
12. ドイツ滞在中、コミュニケーションをとることは簡単でしたか?難しかったですか? (0-10)
12.1 ドイツ語はホスト機関でどれほど使われましたか?
12.2 英語はホスト機関でどれほど使われましたか?
12.3 ドイツ語はホスト機関外(日常生活)でどれほど使われましたか?
12.4 英語はホスト機関外(日常生活)でどれほど使われましたか?
13.1 研究者として、将来ドイツ語のスキルを使いますか?
13.2 私生活において、将来ドイツ語のスキルを使いますか?
-プロジェクト
14. ドイツ滞在前、あなたのホストとあなたとの間にコラボレーションはありましたか?(研究室レベル、研究機関レベル、なし)
15. 以下の項目にどれほど当てはまるかを0-10で答えてください。
15.1 ドイツ間滞在前に、あなたのプロジェクトはホストとの間で適切に議論され整えられた。
15.2 プロジェクト遂行中に、当初の計画に大きな変更が余儀なくされた。
15.3 プロジェクト遂行中、ホスト機関の研究者と密接に(closely)ともに働くことができた。
15.4 このプロジェクトは私の研究テーマを深めていくにあたって重要な貢献を果たした。
16 プロジェクトを完遂できましたか?(完遂した、まだだがすぐに完遂する、まだだがすぐには完遂しそうにはない、完遂できない)
-研究環境
17. 以下の項目で、ホスト機関での研究・労働環境を0-10で評価してください。
17.1 労働設備、職場環境
17.2 PCやIT設備
17.3 リソースへのアクセス(データベース、文献など)
17.4 事務的なサポート(事務やアシスタントなどから)
17.5 科学的な設備や施設
-巻き込みと融合 (Involvement and integration)
18 ホスト機関の同僚と個人的に親しくなるのは簡単でしたか?(個人的な会話、招待、職場外での娯楽活動など)(0-10)
19 全体的に、ドイツ滞在中の職場外での社会的融合(social integration)にどれほど満足していますか?(個人的な招待、共同での娯楽活動、スポーツ、文化イベントなど)(0-10)
20 以下の項目において、ホスト機関での滞在をどのように評価しますか(0-10)?
20.1 ホストからの情報の共有、コラボレーション、サポート
20.2 職場の雰囲気
20.3 ホスト機関内のホスト以外の研究者からの情報の共有、コラボレーション、サポート
20.4 素晴らしい研究者とコンタクトを取る機会(ホスト機関外も含む)
20.5 あなた自身のアイデアや研究トピックについて、ホスト機関内で導入する機会
20.6 あなた自身や研究について、ホスト機関内でプレゼンする機会
20.7 ホスト機関内で、全体的な社会的な融合
21 以下の活動をドイツ滞在中にどの程度行いましたか?
21.1 あなた自身の研究プロジェクトの遂行
21.2 ホストやホスト機関の研究プロジェクトへの参加
21.3 ホスト機関での研究プロジェクト提案への参加
21.4 セミナーや講義を持つ
21.5 博士課程や修士課程の学生を指導する
21.6 学術的なイベントに参加する。
-成果発表と将来の結果
22. フンボルト財団の支援によって得られた結果は次のどれにつながりましたか(複数回答)
・すでに論文になった
・論文を投稿する予定である。
・学会で発表した。
・特許を取得する
23. 論文の数
23.1 すでに受理されたもの
23.2 計画されているもの
24. 口頭発表の数
25 どこで発表しましたか?
-フェローシップの個人的な支援 (Personal benefits of sponsorship)
26 以下の各項目に対して、あなたの滞在はあなたにとってどれほど役に立ちましたか?(0-10)
26.1 職業的なスキル、あるいは手法的スキルの深化
26.2 将来の職業的な機会、見通しを得る
26.3 研究テーマへの集中
26.4 出版スキルの向上
26.5 あなたの研究成果の国際的認知
26.6 さらなる研究グラントの獲得のチャンスの増大
26.7 教育スキルの向上
-イメージ
27 ドイツに対するイメージを教えてください。
27.1 非科学的(-5)----科学的(+5)
27.2 ユーモアがない(-5)----ユーモアがある(+5)
27.3 内気(-5)----オープン(+5)
27.4 短気(-5)----我慢強い(+5)
27.5 非民主的(-5)----民主的(+5)
27.6 反動的(-5)----進歩的(+5)
27.7 男女差別的(-5)----男女平等(+5)
27.8. 官僚的(-5)----非官僚的(+5)
27.9 もてなさない(-5)----よくもてなす(+5)
28 ドイツ滞在中に、あなたの母国とは異なる高等教育機関について知ったと思います。あなたの母国と比べて、ドイツの高等教育機関はどうですか?(0-10)
28.1 国際的
28.2 研究の質
28.3 教育の質
28.4 研究者の職業的見通し
28.5 若手研究者の昇進
28.6 研究資金
28.7 研究設備
28.8 二重キャリアの機会
28.9 育児支援
28.10 労働時間
-フェローシップについての情報
29 あなたの家族(パートナー/子供)はあなたの滞在に帯同しましたか?
29.1 パートナー
29.2 子供
30 フンボルト財団からの家族手当の額は十分でしたか?
-ネットワーキング
31 フンボルト財団の以下の催しはいかがでしたか?
31.1 年会
31.2 ネットワークミーティング
31.3 スタディツアー
32 今後のフンボルトネットワークの下記の項目の活動について、どれほど興味がありますか?(0-10)
32.1 同窓生活動への参加
32.2 フンボルト財団のイベントへの参加
32.3 Humboldt Kolleg(フンボルト財団主催の学術イベント)運営の援助
32.4 フンボルト財団SNS Humboldt Lifeでの活動
32.5 ドイツ研究者を将来ホストする
32.6 その他のネットワークの機会
-総合評価
33 総合的に、ドイツ滞在はどうでしたか(0-10)
34 何が良かったですか?
35 何が良くなかったですか?
36下記の項目について全体的にどのように評価しますか?(0-10)
36.1 キャリア開発
36.2 文化的な経験
36.3 私自身にとって
36.4 家族の経験として
37 あなたはどれほど、、、
37.1 フンボルト財団のフェローシップをほかの研究者に薦めたい
37.2 あなたのホストでの研究滞在をほかの研究者に薦めたい
37.3 ドイツでの研究滞在をほかの研究者に薦めたい
38 将来のフンボルトフェローシップ獲得者への一般的なアドバイス
-プログラムの評価
39 以下の項目について、フェローシッププログラムをどのように評価しますか39.1 フェローシップの期間(0 短すぎる、5ちょうど、10長すぎる。)
39.2 フェローシップの金額(0 少なすぎる、5ちょうど、10多すぎる。)
39.3 全体的な評価(0-10)
39.4 プログラムに関してのさらなるコメント
-フンボルト財団からの助言
40 以下の項目についてあなたはどの程度満足していますか?
40.1 フェローシッププログラムに関する情報提示
40.2 選考中におけるフンボルト財団からの助言
40.3 申請から結果を知らされるまでの期間
40.4 申請におけるフンボルト財団の事務一般の作業
40.5 滞在準備中のフンボルト財団からの助言
40.6 滞在中のフンボルト財団からの助言
-職業的なプラン
41 フンボルトフェローシップの終了後、あなたはプランは何ですか?(ドイツに引き続き滞在する、母国に帰る、第3の国に行く、など)
42 すでに次の職の機会を見つけられましたか?
43 海外での滞在を始める前、母国での出身研究機関に帰るオプションはありましたか?
-結論
44 アンケートはこれで終了です。追加の情報、コメントや助言がありましたら記入してください。
45 アンケートについて一般的なコメントがあれば記入してください。
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