Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

研究雑話(4)

・おさらば

研究室最古参のポスドクがついにラボを去ることに。ガンが見つかって、手術成功して大丈夫そうなんだけど、これからも頻繁に検診などいろいろあるから母国に帰るとのこと。そして、しばらくはアカデミックのポジションを離れる決断もしました。まあ、健康第一ですから元気になってほっとしてますが、ラボを離れるのは残念です。。。なんというか、研究できる幸せをかみしめないといけないですね。

離れる前に一か月ほどラボに来ていろいろと身辺整理。持っている技術などをほかのラボメンバーに伝承していきました。クリスマスディナーが送別会みたいになりましたが、そのあとの最後の出勤日に自らケーキを持参して感謝を伝えるのがヨーロッパ流。ラボからのプレゼントはなんとアンティーク店(というか古本屋?)で仕入れたヘロドトス著の『歴史』の原著。ギリシャ語が趣味だそうです。おしゃれだなあ。。。新天地というか、故郷でも頑張って!

 

・学生実習

学生実習三度。。。修士の学生二人相手に三週間。今度は前述のポスドクからの技術伝承も含めてということで。仕込みが何しろ大変で、材料準備したり、プロトコル書いたり、試薬の残量確認したり、発注したり…とほほ。まあ、ポスドク一人減った分、補充されるまではいろいろと仕事をシェアして回して行くほかありませんが、その分仕事も進まないわけで。。。一応、ボスと交渉して一つだけは自分のプロジェクトと直接関係ある実験を入れてもらいましたが。

学生は女子二人。一人はてきぱきとしてて呑み込みが早く作業もスムーズだが、サイエンスにはあんまり熱意がありません。もう一人はちょっとのろくて作業も危なっかしいが、真剣にノートをとったりとやる気はあるご様子。なんだかこういうパターンは日本でも見たことがありますが、残念ながら今のご時世、前者の方が評価が高く、業績も出がちなので、後者の方が研究者として生き残るのはなかなか困難かもしれませんね。日本もドイツも、じっくり学生を指導するような環境は少なくなってきているように感じます。ドイツの場合、あらゆるところで時間制限が厳しくついてますので、のろのろしているだけで評価がマイナスになってしまいます。後者のような学生をのんびり育ててその成長を見る方が楽しいし、ゆくゆくは何かを見出してくれるんじゃないかと期待したくはなるのですが。。。

実習の評価シートも回ってきました。記録をちゃんととっているか、プロトコル通りに実験できているかなどを5段階評価で評価するわけですが、独立して実験できているか、ほかの人に助けを求めて実験を遂行するかなどの項目もあり、少々驚きました。そういう自律性も評価項目に入っているので、勝手にどんどん自分で実験を進める学生が育つわけですね、なるほど。

がんばってプロトコルを詳しく書いただけのことはあって、試薬の場所を教えるぐらいで、あとは学生たちがせっせと自分たちで実習を進めてくれました。むしろ待っているこっちがちょっと暇になりました。実習が終われば彼女たちはレポートを書いて、6週間以内に提出です。ボスからは事前に下書きを修正しといてとのお達し。おそらくクリスマス前に下書きが送られてくるんだろうなあ。へいへい、やりますよ。

 

・修論研究

前回(研究雑話(3))登場した修士の学生。結局働きぶりはそこまでひどくないということで、そのままうちのラボで修士論文を書くことになりました。自分で実験を組んで進んでいけるので、そんなに手がかからない良い子ではあるのですが、なんというか理系によくありがちな頭でっかちのようで。。。いつかほかのラボのポーランド人ポスドクとしゃべったときに、ハイデルベルク大学の学生は鼻が高くて困るみたいなこと言ってたけど、そういうことか。そういうのが積もりに積もってほかのラボから修士研究を断られてるんだなあ。

例えば・・・

「ほかの人のピペットマンに勝手に触っちゃいけないよ」

「研究費で購入したものは研究室全体のものだから、僕には使う権利があるはずだ」

と口答えしたり、

「ちょっとこの結果はおかしいから、もう一回繰り返してみたら?」

「僕は完璧に実験をしたのに、結果がうまくいってない。だから、この実験計画が間違っているんだ。」

とどこから来たかわからない自信を見せたり、

「ここどうしたの?なんかカメラに映りこんでるけど?」

「なんかレンズが汚れてるみたいなんだ。」

「いや、これは顕微鏡の設定が間違っているんじゃ」

「・・・覚えとくよ」

と、なんというかほかは疑うけど、自分のことはあまり疑わないご様子。

 

まあ、それも若気の至りかと思いながら、あまり気にせずにいろいろ教えてたのですが、、、

「こういうの、将来この分野でやることがあったら気を付けたらいいよ。」

「大丈夫です。僕の研究の興味は、今のテーマよりももっと面白い別のところにありますから、将来やることないと思います。」

とまで言われる始末。君がもっとほかのテーマがやりたがったのは知ってるけれど、引き取り先がなくてうちに来てるわけで。。。うーん、それは本心だろうけど、そんなんじゃ誰も君の手助けしたくなくなっちゃうなあ。さすがに説教するほどのエネルギーも時間も、効きそうな手ごたえもありませんので、以来適当に泳がしています。

人の交流にも興味がないようで、グループランチにも来ず、クリスマスディナーにも来ず、セミナーでは質問しなくて居眠りしたりするので、周りのラボメンバーもだんだんと距離を置き始めてきました。修論終わるまであと2,3か月ですから、まあ、通り過ぎるのを待つ感じでしょうか。ローテーションで人の入れ替わりが激しい分、そのあたりはドライです。

 

・評価書

と、そんな日々を過ごしていたら、件の学生から、よその博士課程に応募したいので、評価書をお願いしたいとのこと。ボスじゃなくて、僕のような一介のポスドクでいいのかと確認しましたが、どうやらそれでいい様子。周りに聞いても、以前いたロシア人博士課程学生の就職活動の時も、指導していたポスドクが推薦書を書いたようです。

理論的知識、技術的正確さ、応用/柔軟性、創造/独創性、ワークロードを組み立てる、意欲/コミットメント、独立性、文章コミュニケーション、会話コミュニケーション、同僚らとの統合の項目に対し、それぞれ、Top 5%, Top 10%, Top 20%, 平均的、平均以下、コメントできないを選んでチェックします。それとさらにA4一枚ほどのコメントを書きます。さすがに人生を左右するので、前述のような悪口を書くわけにもいかず、ほめられるポイントを選んで具体的な事例を列挙しました。あとは本人とも少し相談して、もっと書いてほしいことがあれば書き入れようかなと思っています。

人生初体験。大人の階段を一段上ってしまいました。。。早く研究の階段も上りたいなあ。