Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

研究雑話(7)

・論文

昨年の春頃は実験がいろいろうまくいって、競争相手の噂もちらほら聞こえてきたので、いったんまとめて論文にすることに。しかし何から何までボスと意見が合わない。。。

自分でいうのもなんですが、なかなか質の高いデータだし、今後の研究の基礎にもなるからもっと上の雑誌を狙いたいと主張しましたが、ボスはあまり価値が分かっておらず、中堅誌を主張。まあ、堅めの中堅誌は好きな雑誌だし、これは妥協。

フンボルトの奨学金+研究費を取ってきたんだし、僕のアイデアだったし、研究も主導してやってきた自負はあるので、Co-corresponding Authorを要求。ボスはそれをやり始めたら他のポスドクにもそうしなきゃいけなくなるからと難色。それは理由としてなってない、論文への貢献度を見てそれぞれで判断すべきことだから、もう一度だけ考え直してと伝えると、今度は向こうが妥協してくれました。

中堅誌に出すなら出すで、しっかり記述しよう草稿を送りましたが、データの数は多く無いんだし、レポート形式でいいんじゃない?とボスの意見。早く言えよ。。。図の数が減って、結果と議論が混ざって字数制限が厳しくなってしまいます。短く書いた方が確かにスッキリすることもあるからなあと従って修正したのですが、ボスはひたすら細かい結果の記述を削ってわかりやすくする方向へさらにまっしぐら。そのイントロの煽りとか、議論での逃げ道とか強調とかを書いて字数オーバーになって、結果の記述減らすのって本末転倒というか、最初からレポート形式にするって言わなきゃいいんじゃん。。。しかもデータあんまりわかってないでやるから、科学的に間違いがないように目を配って後から修正するこっちも大変。。。最後の最後になっても、「そんな理屈もわからんと、わかりやすいからってこんなこと書いてたのか!」状態。日本では意見の相違はあっても、お互いが言おうとすることは伝わっていたのですが、、、育ってきた科学教育の環境の違いですなあ。

まあ、良くも悪くも一般人向けにわかりやすい原稿には確かになりましたが、投稿するの専門誌の中堅誌でっせ。。。うちのボスは、私たち下っ端からすると、どうでも良い修正をひたすら繰り返すことで悪評高く(図の構成を入れ替えてみては戻したり、自分で書いたパラグラフを自分で何回も手入れしてみたり)、これまでラボで出た論文も18版とか19版とかまで行ったそうです。今回は6版ぐらいで投稿までこぎつけましたが奇跡的だと古株からの評判。

投稿ボタンをクリックしようかというところで、急に競争相手にも原稿送って仁義切ろうぜと言い出した。。。狭い業界の中の顔見知りの人だし、ボスのバツが悪いのはわからんでもないが、こっちは出し抜くつもりで睡眠時間削って急いできたのに、ハシゴを外された気分。案の定、相手はカンカンになって、投稿延期。まあ、向こうも生活がかかってますからねえ。その後、いろいろあって、競争相手が先に始めていたのを尊重して、先に向こうが投稿して、出版への道筋が見えてから、こちらが投稿する取り決めになりました。それを聞いて、今度は僕がカンカン。そりゃPIとして間違っとるし、ポスドクをなんだと思ってるんですか!と英語で人生初めて喧嘩ふっかけました。夫婦喧嘩は犬も食わないのと同じように、結局はは元の鞘に戻るしかない喧嘩ですが、お互いの考え方の違いがより鮮明になりました。自由にやらせてくれる度量はあるので、そこはありがたい限りでラボを辞めるまではいきませんでしたが、この一件以降は微妙というか適当な距離感のままです。

数ヶ月待ってこちらもやっと投稿。追加実験が必要な査読コメントもなく、皆さん好意的。それをみてボスがもっと上を狙えばよかったかなあと漏らす。。。最初からそうだって言ってるんじゃないか、、、すぐさま修正稿を送ってあっさり受理となりました。留学3年目で論文が出たのは良かったですが、日本の元ボス曰く、この中堅誌じゃ日本に帰って来れんわなあだそうで。もう一、二報出せるよう頑張ります。

まあ、悪口みたいになってしまいましたが、ボスもボスのやり方で教授になったわけで、そこを選んだのも僕なわけで。。。論文を出す過程を通じてやっと、やりたいサイエンスも、サイエンスのやり方も、人によってこれだけ違うんだなということがよくわかりました。そういう意味では大変勉強になりました。結局、やりたいようにやるためには独立するしかないんですねえ。そんなにたやすくもないですが。

  

日本だとプレスリリース準備したり、記者会見したりもしてたのですが、ハイデルベルク大学ではそういうのはなさそうです。大学全体の広報しかなく、プレスリリースは年間で150回程度。受賞とか、研究費獲得のプレスリリースも多いので、成果の発表は半分もない感じでしょうか。一応ボス伝いにお願いはしてみたのですが、レスポンスは鈍いよう。

https://www.uni-heidelberg.de/presse/indexnews.html

実際、地元の新聞を見ても、ドイツの大学の研究でこういうことがわかった!的な科学の記事はほとんど見当たりません。日本は大学の評価に新聞記事がいくつ載った的な数字も使われますから、やっきになってたので、そういう熱がないというのもありますが、そもそも一般国民の科学研究に対する興味も少なさそうです。

お世話になった研究室の人や、ほかのラボの人にもメールで連絡し、スパークリングワインでプチセレモニー。自分から連絡するのがドイツ流です。Rotkäppchen(赤ずきんちゃん)というブランドのスパークリングワイン(Sekt)が大衆的なもので、ラボのお祝いでもよくつかわれて、スーパーでよくセールになっています。フランス産の本場シャンパンはドイツでも、お高い感じです。

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