Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

研究雑話(9)

・去る人(1)

 メキシコ人ポスドクが民間企業に転職。5年のプロジェクトで雇われ、3年間がちょうど過ぎたぐらいの時でした。当初予定していた実験が次々にぽしゃり、なんとか活路を見出して研究を続けていましたが、日に日に、ボスがあんまり自分の将来を真剣に考えてくれていないと不満を漏らしていました。一方で、家族たちはハイデルベルクを気に入り、「次、どこかでポスドクやっても、私たちはついていかないからね」なんて言われる始末。そんなところに、LinkedInというSNSを通じて、転職エージェントからお誘いがやってきたらしい。ハイデルベルクにオフィスがあるバイオ系企業です。

あれよあれよと役員面接まで行き、今後の仕事に関連する業界の展望をプレゼンすることになったらしい。へー。見事に一発で合格を決め、入社することになりました。

「もう論文出すことはなくなると思うけど、寂しくないですか?」と聞かれたら、

「ありません。喜んでサインします!」

と答えてやるぜと面接前に言ってましたが、予想通りそんな展開になりました。本当に採用するかどうかの決定は2週間ぐらい待たされたようですが。特に転職活動はしてないのに、オファーもらえちゃうんだ。。。すごいなあ。僕もLinkedInのページちゃんと更新しようかなあ。後で聞けば、夏の僕の論文にまつわるボスとのいざこざも、ボスを見限る一因になったんだとか。

折しも、ちょうどボスから彼に、キャリアについて一回ミーティングしてみようかと誘っていたころでした。その場で彼はラボをやめて転職することになったことを伝え、ボスは寝耳に水で超ショック。数日後に僕とミーティングしているときにもその話題になり、いろいろ話しましたが、なんというかメキシコ人ポスドクとの気持ちのすれ違いがすごいのなんの。。。彼がボスに不満を持っているだなんて想像だにしなかった感じで、説明されてもいまいちなんのことを言ってるんだかわかってない感じでした。まあ、上司と部下なんてそんなものですかね。

メキシコ人曰く、手取りの給与はそんなに変わらないらしいが、もちろん終身雇用。会社からは車も支給され、自分で車種を選んで自由に使っていいうえに、ガソリン代も支給。これがドイツの普通か。。。家賃や子供たちの幼稚園代なども会社が負担するんだとか。さらに、有給休暇には有給休暇手当てがついて、取得した分だけ1日あたり20ユーロぐらいお小遣いが支給されるらしい。。。すごいなあ。。。というか、ドイツで人雇うの大変だなあ。。。

分野転向してきた僕を、足取り手取り教えてくれた彼。寂しい限りですが、同じハイデルベルクにまだいるんだし、これからも頑張ってほしいですね。近頃連絡を取ってみると、やれロンドンに研修、やれカリフォルニアに研修とずいぶんワールドワイドに活躍しているようです。

 

・去る人(2)

昨年3月にやってきた韓国人ポスドク。こちらは病気でやめざるを得なかったフランス人ポスドクの跡継ぎの予定でした。この1年で前ラボでの仕事が論文として公開され、結構な業績の持ち主になっていました。昨年末に母国韓国でテニュアトラックのPIポジションが空いたと紹介され、応募してみたところ、面接に呼ばれ、年末に面接しに帰ったら見事採用。今年から韓国でラボを持つことになりました。韓国も中国も、ポジションに応募する時の業績は過去3年分と限られることが多く、旬の時に売っておかないと、後々困るそうで。面接に呼ばれたころに彼がボスにも応募してる旨を伝えたところ、これもボスにとってはびっくり話。応募したフェローシップの結果はまだ届いてないし、一年も経ってないのにポジションを探し始めるとは。。。という感じでした。もちろんいつかは来るときではありますが。

そうはいっても栄転だし、めでたい事です。というか、すごいことです。韓国のポジションは身体検査は厳しいらしく、健康診断をしに韓国に前もって帰らないといけなかったり、本人だけでなく、親族の犯罪歴や資産状況も提出させられるらしいです。プライバシー侵害というか、それをパスしないと契約しないっていったい。。。

与えられた仕事はあんまりやる気がなかった彼ですが、一方では3つぐらい新しいテーマになりそうなデータを取っていきました。アイデアがよくもまあそんなに湧くなあって、人ごとのように感心してる場合じゃないですが。自分の手だけでは確かにそろそろ限界というところで、これからPIとなって、学生たちを指導しながらそのアイデアをどんどん形にしていくのでしょう。

 

・去る人(3)

メキシコ人ポスドクと同じプロジェクトで雇われていた中国人ポスドク。こちらも中国の時の仕事が論文として公開され、まあまあな業績の持ち主になっていました。故郷の近くの大学でポジションが空いたらしく、すかさず応募。面接に呼ばれ、こちらも採用。来年から中国でラボを持つことになりました。めでたいこと続きで、妊娠も発覚。ところがつわりがひどく、ラボに行くのはやめるようにとの医師の診断。。。ポジションも決まったことだし、体を大事にして、子(胎児)育てに専念してくださいまし。

 

僕も入れてポスドク4人で賑わっていたラボでしたが、4か月ぐらいの間に僕は学振を取って延長し、残り3人は次のポジションを見つけてやめることが決まりました。民間転職も珍しくなく、同じフロアのポスドクも去年何人かそうしてやめていきました。アカデミックに残る方も、留学先で仕事まとめて帰るというより、旬な業績があるときにすかさずポジションを応募する感じなのか。。。今のボスは気に食わないけど、まだまだやることがあると思って同じラボに居残ることを選択しましたが、果たして正しい選択だったかどうか。。。しかし、みんなポジション探し始めるの早いなあ。

ボスの方も立て続けにポスドクに辞められて、さあ大変。プロジェクトは運営しないといけないし、学生や実習の面倒を誰かは見ないといけないし。。。さっそく学生とポスドクの募集を始めてました。僕が日本に学会に行くついでに、あちこちでセミナーしたいというと、「職を探してるのか?」と疑心暗鬼に聞いてきたところを見ると、結構弱ってるなあ。なんでもポスドクポジションに応募があって、そこのPIにどんな奴か聞いてみたところ、「職探してるなんて聞いてないよ!」と返ってきたんだとか。ボスに隠れて職探しが蔓延しているようです。

 

・去る人(その他)

最古参だったオーストリア人学生が、博士審査をパスし、そろそろアメリカへ留学。新天地でもがんばってー。こっちの文化じゃ、送別会も自分でアレンジするのか。。。ヨーロッパの学生にしては珍しく、土日もラボに来ることを厭わないがんばりやさん。ごちゃごちゃ言わずにきちんとデータを集めて、毎回統計処理もばっちりの姿は、ちょっと尊敬です。最近彼氏ができたって、ボス邸のパーティに連れてきてたのに、もう遠距離恋愛かぁ。。。って、僕もうそういう恋バナを聞いてもウキウキしなくなった年頃になったんだなあ。英語ペラペラでもアメリカに行くのは一大決心がいることのようです。

ラボの技官さんは通勤中に自転車事故。複雑骨折になって、手術でボルト入れたりしてと結構大変なことに。退院後はリハビリに通う毎日です。快方を祈るばかりですが、ラボの中のこまごまとしたことをまとめて引き受けてくれていただけに、いろいろ対応を迫られることに。机の上に請求書たまってるけど、大丈夫なんだろうか。。。まあ、でも触らぬ書類にたたりなし。

 

・来る人

マンパワーが全然足りてませんが、イタリアより博士課程の学生が一名参入。ボスが面倒見ることに興味ある?と僕に聞くので、僕のテーマに近いなら興味ありますと返答。いい感じで割り振りができれば良いのですが、果たしてどうなるやら。他にもフランスからインド人ポスドクがやってくるのと、ハイデルベルクの修士学生が、終了後に博士課程で入ってきたいらしい。結構すぐに見つかるもんだなあ。でも使えるやつを見つけるのは難しいはずだから、どんなことになるやら。うちのボスも人見る目ないしなあ。。。

去る人がみんな去ってしまうと、いよいよ最古参ポスドク就任へ、、、ボス、技官さん、産休取ってた学生に次いで4番目の古株に。やっぱり辞めどきを逸した感が否めないですが、業績を積んで、早く抜けられるよう、頑張るしかありません。