Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

研究雑話(12)

・新ポスドク参上

デンマークで学位を取ったスイス人がラボに加入しました。ドイツ語圏のスイス出身ということでドイツ語もペラペラです。学生実習にもさっそく参加してもらい、負担が半減。。。ふぅ、これでやっと一人ポスドク時代がやっと終わりました。顕微鏡のデモとか、ビールアワーとか、いろいろな企画にも積極的でなにより。おかげさまで自分の研究に割り当てられる時間が増えました。

n = 1なので、スイス人の特質かどうかなんとも言えないのですが、なんでもきちっとしたい性格の様で、まだ実験が始まってない頃は、ピペットマンの補正とか、培養環境の条件測定とかもくもくとやってました。

いつぞやのグループランチの時に、今のドイツの一番関心がある政治的なトピックは何と聞いたら、ドイツ語圏のみなさんが環境問題かなと口をそろえていました。日本じゃ環境問題が政治の話題のトップになったことないですよね。。。研究環境ももっとエコにしないとねということで、-80℃のディープフリーザーを-70℃にしよう運動も起きています。

環境に配慮ということで、培養室の棚の使ってないところの電気は、各々消していたのですが、新ポスドクさんは隣の棚の電気が消えると、俺のところが暗くなって条件が均一でないと抗議。ラボミーティングでこれからは使用中であるかどうかにかかわらず全部の棚の電気をつけっぱなしにすることが提案され、正論を振りかざされるとまあ、そりゃそうしようねとあいなりました。

それにもかかわらず、しばらくして、新ポスドクさんのとなりの棚の電気がまた消されて彼は腹に据えかねる様子。この培養室は他のラボとも共用なので、使用者全員相手にメールを送り、実験条件が整わないから電気を消さないでくれと抗議。。。すると上のラボのポスドクが使ってないとみて、電気代節約のため消していたと名乗り上げて、こちらも筋金入りの環境保護派なので、勝手に消してすまなかったと謝ったうえで、使わない棚の電気を消すことでいかにエネルギーを節約できるかを力説。。。でもまあ、もちろん今後は勝手には消さないよと決着です。

おかげで、がらんとほとんど使われてない棚も全段照明ピカピカ。。。いやまあ、いいんだけどさ。でも君の実験ってまだほとんど始まってないし、影響が出るかどうかもわからないのにそこまで暴れなくたって。。。しばらくして実験を始めましたが、今度は棚の手前と奥では乾燥度合いが違うと言い始め、俺の実験はここじゃなく、環境が完璧に調整できるインキュベータでやりたいのだそうで、結局棚の電気は全部つけっぱなしにするルールだけが残りました。

 

・新ポスドク参上2

彼に与えられたプロジェクトは、途中でやめた中国人ポスドクの続き。2年間の苦労の末、ようやくストーリーの大筋は固まって、僕の目からみるとサクっと論文にしても良いような感じでしたが、ボス的にはもう少しほってから論文にしたい様子。最初の実験はまず再現からということで、重要どころの再現を試みますが、どうやら方法が気に入らないらしい。より大規模で、公正なデータがとりたいようで、前任者の方法を一蹴。。。しょっぱなからダブルブラインドで、大規模なデータを取り始め、観察方法も変えて、統計の結果は有意差なし。そして、再現性が取れないから、俺は他のプロジェクトをやると、プログレスセミナーで主張。ボスも簡単には引き下がりたくない様子ですが、やりたくない人に何かをやらせるすべもないので、結局はあきらめた様子です。現在はEMBOフェローシップに応募するというので、PCの前にこもって何やらプランを練っている様子。

いやー、でも君の給料って、このプロジェクトの研究費から出てるよね、、、もうちょっと何回か試したっていいんじゃないかしら。まあ、プロジェクトしばりといったって、厳密にやり過ぎてたら、次の研究の芽が出ないから、どこもある程度は融通は利くけれども。というか、ほかの分野に飛び込んできたのに前任者の否定から入るってその自信はどこから来るよ。。。俺はお前らと違って、実験環境のささいな違いにも、統計の取り方にもちゃんと気を配るんだぜと、暗にこっちが馬鹿にされてるような気もしますが、いったい科学で正しいことをやりに来たのか、それとも何かを見つけに来たのか、ようわからんです。まあ、今度は自分発案の研究テーマとなるわけだから、こう簡単にはあきらめないでしょう。

 

・バイトを雇う

ハイデルベルクに来て2報目の論文を投稿準備。今回も前回と同じく、すんなりとはいきません。

ボス発案の10年来のテーマで、僕がかかわるポスドクとしてもはや3人目の難産の子です。データがやっと整って、インパクトファクターを追求するならここからもう一仕事(1年ぐらい?)なのですが、いい加減流行おくれになるので、あきらめてデータ論文として投稿することになりました。ボス的にはまだいろいろ気に入らないところがあるらしく、こういう確認実験がいるんじゃないの提案。いやまー、あるにこしたことはないけど、そこまで手を広げると僕のプロジェクトに手が回らないですというと、じゃあ、学生のバイトを雇えばいいじゃない、ちょうどいまメール受け取ったんだよとの思し召し。。。ああ、断るのに失敗したかあ。

Wissenschaftliche Hilfskraft (HiWi)という制度で、ようは学生バイトです。修士課程のスウェーデン人学生が来てくれました。さすが北欧だけあって、女子だけど身長が高い。そして、去り際にウインクしてくるんだけど、どう反応していいかわからない。。。

ドイツの制度ではミニジョブというのがあり、月額の給与が450ユーロ以下なら、社会保険などの手続きも簡易のようです。これで月40時間の労働時間で、6か月の契約です。彼女は実に優秀で、手際よくいろいろやってくれました。プライマーのデザイン、クローニング、形質転換、顕微鏡観察まで一通りこなし、論文のFigure1個分のデータを取り、投稿中の論文の著者にもなりました。

学生実習とか、単発的な作業を技官さんにお願いすることはありましたが、こういう風に人を使うのは初めてで、いろいろ勉強になりました。指示ミスから無駄骨を折らせることもしばしばで、申し訳ない限り。。。バイトとはいえ修士課程の学生なので、教育的配慮からプロジェクトに関わる仕事をは願いして、単なる作業をやらせるのは極力避けました。だれかから言われたわけではないですが、、、そのおかげかどうかはわからないですが、最後までモチベーションが下がらず、責任感をもって完遂してくれたように思えます。空いた時間は自分のプロジェクトに集中したり、論文の原稿を書くのに当てることができました。前の論文のデータは全部自分で取ったので、なるほど、これが研究者としての次のステージということですか。自分が経験してきたところの範疇なので、細かいところはいろいろと気になりますが、どこまで質を追求するかの匙加減が難しいところです。全部自分でやってたら何のためにバイトを雇ったかわからないし。。。完璧じゃないにしても形になったので、ひとまず満足です。