Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

研究雑話(15)

・背景

海外からでも使える日本の研究費は少ないのですが、その一つがJST(科学技術振興機構)がやっている「さきがけ」です。3年半の期間で最大4000万円までの研究費です。

さきがけ

将来の教授になるひとたちがよく採用されていて、登竜門的な印象です。いつかは応募したいなと思っていて、まだちょっと早いかなという感じでした。が、聞けば同年代ぐらいの元同僚らも結構昨年応募していたし、分野的にちょうどフィットする領域もあることなので、思い切って応募してみることにしました。1領域は3年にわたって応募を受け付けますが、これを逃せば次は何年後にフィットする領域が来るかわからないので出し惜しみしても仕方がないし、まあ、ちょうどロックダウンでホームオフィスも増えたことだし。くくりは緩いものの、戦略に沿った提案が採択されるので、通常の科研費のようにどの分野でも出せるというわけではありません。他の方と比べるとまだ業績がだいぶ見劣りしますが、、、まあ、何事も経験ということで。

 

・申請手続き

さきがけの申請はe-rad。研究者番号が必要で、通常は所属機関の事務が登録してくれるのですが、海外にいると個人申請になります。

(研究者向け)新規登録の方法|府省共通研究開発管理システム(e-Rad)ポータルサイト

日本まで郵送申請ですか、さいですか。。。案内に従って郵送したところ、内閣府の担当者からメールが来て、あなたすでに登録されてますとのお知らせ。ああ、そうだった、ドイツに来る前にポスドクで科研費を申請したことがあったから研究者番号を作ったんだった。採択されなかったからすっかり忘れてました。

e-radの担当者から、研究者番号をメールで教えてもらい、それを使ってログインIDをe-radのシステムらからメールで教えてもらい、パスワードを再設定して、ようやくログインできました。日本にいた所属機関のメルアドを登録していたので、あやうくメールが受け取れなくなるところでしたが、わがまま言ってにアカウント維持してもらってよかった。これでお役御免ということで、解除してもらいました。

ということで、海外に行くときは研究者番号をメモって、e-radのメルアド変更を忘れないようにしましょう。

 

・申請書作成

当初の締め切りは5月12日でしたが、コロナの影響で6月16日に延長されました。2ページの要旨(ショートバージョン)に、6ページの研究提案(フルバージョン)が様式です。海外学振に比べたら長いのでいろいろ書き込めますが、ドイツの申請書に比べたら短いので、ちまちま書かずに目的・ねらいなどを重点的に書きました。

他制度での助成等の有無のところで、海外学振のことを書くわけですが、書き方が難しい。受給研究費という意味では、0円で、滞在費・研究活動費としてもらっていると書き込みました。エフォートはもっと難しい。海外学振側は専任義務を課している一方で、研究費の申請・受給は下記条件のもとに許可しています。

【受給条件】
1.海外特別研究員の研究課題の遂行に必要であること
2.研究資金の経費には海外特別研究員採用者本人の給与(相当)等、 生活経費に関するものは含まれていないこと

とりあえず申請時点では、さきがけのエフォートを100%として、海外学振は本提案に含まれるとしましたが、のちのち事務方より修正要求が来ました。

特記事項のところある程度自由が利くので、提案書には書けないような意気込みとかアピールポイントとかを書きました。「海外研究機関での研究実施を希望する理由」「着想に至った動機・いきさつ」「なぜさきがけ研究費がいるか、海外学振だけじゃどこが足りないのか」などについてです。現所属が海外だから海外で研究というだけではだめで、さきがけは国内で研究する分には、身分がどうしてもないときはさきがけ研究員としてJSTが雇ってくれるので、いろいろ理由付けが必要なようです。また、海外学振の任期が途中で来るので、異動をどう予定しているかについても書きました。

海外研究機関の研究契約担当部局 責任者の連絡先も書かないといけません。ということで、教授とも相談して所属機関の担当者に事前に連絡したのですが、数週間まった挙句に、これは大学本部の仕事だからと言われ(早くいえ。。。)、大学本部の人を紹介してもらい、いろいろ説明して、最後なんとか承諾を経て間に合いました。

Research Division – Contacts - Heidelberg University

本当は申請書の成功例をいろいろ取り寄せたり、日本の同僚らにいろいろ見てもらいたいのですが、関係者・利益相反者が多すぎて誰に送っていいのかがわかりません。。。そんなに通るもんでもないし、ご迷惑を。。。とか本当は言ってちゃいけないのでしょうが。申請直前になってなんか不安になってきたので、一人だけ見てもらったぐらいでした。

 

・創発

6月1日付でJSTで新しい事業が発足され、「創発的研究支援事業」というのが始まりました。最大7年間で最大5000万円(最初の3年は2000万円)。よくもまあ毎回新しい名前を考えてこれるな。。。

事業紹介|創発的研究支援事業|JST

本事業は、特定の課題や短期目標を設定せず、多様性と融合によって破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す「創発的研究」を推進するため、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を、研究者が研究に専念できる環境を確保しつつ原則7年間(途中ステージゲート審査を挟む、最大10年間)にわたり長期的に支援します。

 具体的には、大学等の研究機関における独立した又は独立が見込まれる若手を中心とする研究者からの挑戦的で多様な研究構想を募集します。また、創発的研究の実施機関は日本国内の研究機関に限定しますが、採択時に国内機関に所属していない日本国籍を有する研究者には、研究を実施する国内機関に異動するまで、研究開始を一定期間に限り保留する資格を与えることで、そのような海外機関に所属する研究者からの積極的な応募も期待しています。

破壊的ってのもすごい言葉遣いだな。。。海外での研究には使えませんが、海外にいても申請でき、「ただし日本国籍を有する研究者については、研究開始の時期を採択後最大2年間猶予します」という但し書きがついているので、採択されてから、所属先を探し始めても十分に間に合う設計です。一方、さきがけ研究員のように雇用してくれるシステムはないので、ポジションは自分で探さないといけないようです。

締め切りは7月31日。研究計画書は最初の3年だけでよく、フォーマットも同じJSTのものでほぼ一緒なので、さきがけのものを流用すればそれほど時間はかからないこともあり、併願することにしました。

全分野で200件なので、広義の生物ではどのぐらいでしょう、1/2-1/3ぐらいでしょうか。博士号取得後15年までが申請可能なので、結構な競争になりそうです。7年というのはすごく長いのでいろいろ使い勝手はよさそう。3年目の時の申請でどれだけ落とすかにもよりますが、まあ、結果は出なくともまじめにやってたら、趣旨からして普通は通すでしょう。さきがけだとどうしても分野のムラがあるので、そういう面ではいつでも出せるからいいのですが、一方で提案者と審査委員の専門のずれも大きく、分野が違う申請書を比較評価するのは難しそうです。

 さきがけの方が方向性がある程度固まっていて、その分野の専門家がそろっているので、ごまかしが効かずにプレッシャーを感じながら研究することになりそう。もちろん、いろいろ勉強にもなりそう。創発の方は各分野のイケイケの人たちが集まってくるので、本当の意味での異文化交流になりそうです。まあ、さきがけほどは、領域内でのインタラクション・相乗効果を期待するようなプログラムではないのかもしれません。どっちも採択されたら創発の方が自由でのびのびしててやりやすいかなと、餅を描いておりました。

https://twitter.com/JST_Kisokenkyu/status/1289025490246754304?s=20

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