Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

役割分担

ドイツに来て、分業化がはっきりしていると感じます。研究室でのオートクレーブ滅菌や、器具の洗浄は研究科全体で雇用されたスタッフが、研究棟全部の実験器具を集めて行っています。寒天培地のプレートづくりもスタッフがやってくれますし、シーケンスのチェックもベクターとプライマーを混ぜるだけの外注です。有料ソフトウェアも十分に準備されていて、単純作業で時間をあまり食わないようになっています。プライマーの注文も、研究員はデータベースに記入するだけで、そこから研究室のスタッフが共同のデータベースに書き換え、それらをまとめてほかの研究室のスタッフが注文をし、届いたらその人から案内をもらい、そこまで取りに行きます。ムダっちゃムダなんですが、一応研究員の負担が少なくなるように配慮はされていて、そしてそれらのスタッフの雇用も大事に維持されています。

 

 僕自身もどちらかというと、費用対効果を常に考えてしまう方なのですが、一個ずつ上記の作業を考えていくと、研究員自身がやったほうが費用は節約できるかもしれません。時間にしたって、手間が省けた時間を全部研究に費やしているかと聞かれれば、あんまり大きな声で言えませんが、同僚としゃべったり、関係ない論文読んだり、ネットサーフィンもしたりするので、そんなことはありません。でも、このあたりが日本とドイツの働き方の差に出るわけだと思います。日本の研究者が忙しいのは、他人にでも任せることができる作業を、経費節約という名のもとに全部自分でやっているという一面もあると思います。個々の研究室の研究費は限られますから、コストカットに走りがちなはずですが、研究所が所としてサポートしたり、研究室主宰者が思い切って投資したりしているようです。考え方の違いが根本にあると思います。

 

勤務時間は大体8:30-17:30のようです。18:00も過ぎれば研究室にほとんど人はいません。日本の研究室だと、特に独身の人は暇があればラボに来て何かしていることが多かったですが、学生もよっぽどの実験・締め切りでもない限り、上記以外の時間で見かけることはありません。金曜日に至っては15時ぐらい過ぎたらもう週末気分です。仕事・学業は、この時間内にできることをするのであって、生活時間を切り崩してまでするものではないようです。分担がはっきりしています。

 

 バカンスも似た感じで、夏冬3週間ずつは休めるそうです。勤務業態は関係ない、研究者業は最後は業績がものをいうといったって、さすがにフルで三週間休む人はあまりいませんでしたが、二週間ぐらいはみなさん休むようです。面白いのは秘書さんも当然のように3週間バカンスなので、その間の手続きはすべてが止まります。何かあっても、「彼女バカンス中だから」といえば、みんなあきらめます。それほどバカンスは不可侵のものなのです。

 

日本でも働き方改革が政府で検討されているようです。こういうのは文化と慣習ですから、制度・規制で何とかするのは難しいかな。何が大事で何がムダか?というところの価値観ですからね。まずは生活を中心に据える。18:00には家に帰る。週に1日~2日は休日にする。年に2回は家族でどこかに旅行に行く。次に、それを乱さない程度に仕事・勉強をする。それで回していけるだけの十分な人数を採用して、十分な設備を投資し、かつ、それで暮らしていけるほどの給与を設定する。これをムダと思ってはいけないんですね。儲かるからと言って日曜日にお店を開けてはいけないんです。駅前のBURGER KINGも日曜日にいくと、たいていはきびきび働けない人が出てくるので、従業員の方もいくらお金がほしいからと言っても、日曜日まで働くことはあんまりしたくないのでしょう。生活の方が、経済よりも重要という価値観です。

 

日本式がいいか、ドイツ式がいいかはもちろん人それぞれですが、問題は形式よりも意識です。「経理が今バカンス中なので支払いは3週間後になります」と言われて、「仕方がないね」と思えるかどうか。まあ、バカンスじゃなくても、「担当者は今育児中で早期帰宅しました」とすんなり誰にでもいえるかどうか。日本の残業問題にしたって、残業代にすがらず、明日から日本中の労働者が一斉に定時帰宅すれば、残業もなくなる上に1年もしないうちに雇用する人数も増え、基本給も上がりますよ。そうしないと人を採用できませんし、事業が継続できませんからね。でも、日本人の価値観だと、残業してまで仕事に打ち込む人がいい人で、仕事をほっぽり出して家に帰る人が独りよがりの人ですから、なかなかそうはなりませんね。

 

もちろん、良し悪しは単純に言い切れません。インターネットや携帯電話の契約で苦労しましたが、縦割りで役割分担が進んでいるので、定められた仕事以外は決してしようとしません。レンタカーを借りて返した時に、ベビーシートを車内に忘れたのですが、それですら電話一本かかってきません。「だって、そんな仕事契約にないもん」っていうに違いありません。日々暮らしていると、こういうイライラには枚挙にいとまがありません。日本のサービス業は本当に細かいところまで目が行き届いているとは思います。

 

個人の理想を言えば、もう少しドイツ式の働き方を取り入れてはと思います。国際競争力も大事ですが、いまや内需拡大が叫ばれていて、競争相手は得てして同じ日本人です。生活を大事にする価値観をとりいれ、もっとゆとりがある働き方にした方が、全体の幸福度が上がるのではと思います。現状の制度の中では、有給は全部使う。同僚、相手先が有給使ってもイライラしない。働いてる時間で競わない、グダグダ言わない。残業しなきゃいけないような状況を作らないように人手を増やし、必要なツールを投資し、仕事をアウトソーシングし、そしていらない仕事をしない。そういう土台の上で、国内競争をしてほしいなと思うわけです。