Wunderbarな日々

妻子連れ30代生物系ポスドクのドイツ滞在記です。

研究雑話(3)

・略語

〇〇研(〇には人名が入る)と日本では言いますが、ドイツではA.G. 〇〇。何の略かと思いきやArbeitsgruppenだったらしい。なるほど、仕事のグループということか。ca.というのもよく見るが、circaという"およそ"、"約"の意の副詞。ピリオド含めると二文字しか省スペースされてないけど。。。O.M.G.という俗語もありますが、Oh my god!じゃなくって、Oh mein Gott!がドイツ語バージョンです。

 

・納期が遅い

タブレット端末がついに再起不能に。家や出張先でメールをチェックしたり、論文を読んだりもするので、一台買ってもらえないかとボスに相談。「僕はいいんだけど、君に買うとみんなにも買わないといけなくなるし、、、」と渋るも、「フンボルト奨学金の研究費でならいいですか?」と聞くと「そうだね、フンボルト財団の研究費は君のものだから自由に使っていいよ。」とありがたいお言葉。

秘書さんに聞くと、型番を教えてくれたらこちらから発注するとのこと。早速お願いすると在庫がないから納期最大4週間!!ネットで頼んだら次の日に来るものが一体なぜ!?

なんでも、大学としてはできれば立て替え払いを避けて、特定の業者を選定してあるのでそちらを通してほしいとのこと。「待てないというなら、ほかで買ってもらって、立て替え払いでもいいんだけど。。。」と秘書さん。まあ、そこまでは急がないから別に待つけど、どこもかしこも競争がないと仕事がのんびりしているようで。。。実際には10日ほどで届きました。

 

・妊娠に伴う安全検査?

ラボの学生が妊娠。どうやらみんな僕より前に知っていたらしい。。。まあ、そういうもんだわな。いつもは年に1回ぐらいの研究室の安全チェックがあり、その日は飲み物と食べ物を見えないところに隠して、みんなゴーグルを常備して、白衣みたいなラボコートを着ることになっている。ところが、ラボ環境が妊婦さんに適したものかどうかをチェックしに来るというので、うちのフロアだけ追加でもう一度チェック。メルカプトエタノールなどの毒劇物の管理など、妊婦さんに関連あることを対象とした視察らしい。なにせうちのフロアの人だけ全員ラボコートだから、ほかの階にいくと「どうしたの!?」とみんなから聞かれる。無事にチェックが済み、妊婦さんはこのまま実験してもよいとのお許しが出ました。エチブロ(EtBr)にも触れちゃいけないらしく、電気泳動系の実験は先輩が代わりにやってあげることに。

出産半年後ぐらいには復帰したいなとのことで、保育所を探してみたが生まれる前なのにもうどこも一杯でウェイティングリスト入りの順番待ち。

「これでなにが女性研究者を増やそうだよ」と吐き捨ててました。事情はあまり日本と変わらないようで。。。

 

・蚊にかまれて。。。

同僚のポスドクからみんなに連絡が来て、蚊にかまれてアレルギー反応がひどくて、今日は休みます。と思っていたら数日後に連絡が再びきて、検査の結果、蚊の方は大した問題じゃなかったんだけど、腹水がずいぶんたまっていたのがわかり緊急入院。数リットル抜いた挙句に検査してみるとガン細胞がみつかり。。。っておいおい、気軽に連絡するような話じゃないぞコレ。

本人としてはピンピンしていて、今すぐにでも実験に戻りたいんだけど、医者からは腹水の原因がわかるまでは安静をと突然言い渡されていてと困惑しているのだそう。もちろん本人も生物学者だから、いろいろわかっている。開腹しての検査が必要になり、親御さんとともに地元にいったん帰ることになり、今のところは早期に発見できたステージの浅いガンのようで、とりあえずは完治の希望が持てそうなところまで来ているが、もちろん予断を許さない状況。

あまりの突然のことに、語学の問題とかじゃなくて、どう反応してよいかわからない。本人が挨拶に来た時もなんといっていいかわからないし、普段の同僚とのおしゃべりでもどう触れていいんだか。。。一番の働き者で、一番実験が好きな人だけに、これはなかなかつらい。本人はいたって「すげーダイエットになっちゃったぜっ!」とケロッとしているように見えるが、

「なんだか楽観的にみえるわね?」という学生の何気ない一言に、

「悲観的になっても、いいことないでしょ。」と返してたのが、なんというかたくましい。本人にはうまく伝えられなかったけど、応援してるので頑張ってガンをやっつけて、戻っておいで!

 という深刻な話題の後で恐縮ですが、ドイツの蚊(?)に咬まれて、僕も半径5cmぐらい腫れました。。。ちょっと毒が強めなのかな。。。

 

・高校生

ボスから呼び出し。

「この前言ってた実習のことなんだけど。。。」

「あれっ?まだだいぶ先のことじゃなかったでしたっけ?」

「いや、そっちじゃなくて、高校生の方。」

「ああ、ドイツ語しかわからなかったら、どうやって教えようかって言ってたやつですか。」

「覚えてくれてたのか、よかったよかった。あれ、来週に学生が来るから、その実習のことを話し合いたいんだけど。」

「来週!?しかも僕がやることになってましたっけ!?」

「だって、君、興味あるって言ってただろ?」

と、いきなり仕事が降ってくる。日程も何もかも聞いてなかったぞー。僕に決まったって聞いてないぞー。もうほかの実験準備しちゃったぞー。まあ、確かに最近ボスは自分の引っ越しの準備でてんやわんやで、いろいろ自転車操業気味。

うちの研究所が高校生向けに夏休みの2週間のサマースクールのようなものをやっていて、うち、それぞれ3日間の実習を二つのラボでやることになっている。それで僕の研究室でも学生を二人受け入れることになったから、その面倒を見てほしいとのこと。仕方があるまいといろいろ実験を慌てて仕込む。この期に及んで、ボスがまた実験が足りないとか言ってくる。。。「変異体をどこかで使った方がいいと思うなあ。やっぱり機能の解析というのが生物学では重要だよ!まあ、これは僕の意見だから、あとは君が決めて!」へいへい、おっしゃる通りです。

こちらも自転車操業で、三日間の実習をなんとかこなす。一人はデュッセルドルフからで、もう一人はシュトゥットガルトの近くから来ているようだ。みんな結構遠くからわざわざハイデルベルクに来ているようで。。。言語の心配なんていらず、お二人とも英語ペラペラ。むしろ心配が必要なのは僕の方だったか。。。最後の全体発表をちらっと見たところだと、英語が苦手そうな人も数人いるが、それでも日本の高校生のちょっとしゃべれるぐらいのレベルだ。男の方は専門学校?かなにかで、週6時間もバイオテクノロジーの授業があるらしい。もうなんか教えることないんじゃないか?まあ、それなりに満足してもらえたようでよかったよかった。

しかし、本当に二人の高校生が優秀。夏休みにわざわざ来るだけのことはある。通り一遍で表面的にならずに、実際の研究の肝などもおしゃべりできて、通じたのもよかった。疲れたけど、こちらもいい刺激になりました。でも男の子の方、女の子の方がじっくり考えているときに、さっさと答えを言ってしまうのはいかんぞ!もうちょっとこっちの教育的配慮を察してくれ。

 

・身辺調査

ボスがまたふらっとやってくる。最近来るたびに野暮用を押し付けられている気が、、、もうちょっとプロジェクトの方も興味持ってほしいなあ。

「修士の学生から連絡が来たんだが、ちょっと変な奴で、修士論文の研究を受け入れてほしいという内容なんだが、ほかのラボから断られて引受先がないとまで書いてあるんだ。」

「ほー。それはなかなか正直な奴ですね。」

「それで彼の実習を担当したことがある人にちょっと聞いてみたんだが、論理的思考はできるものの、どうやらすごく実験が遅いらしいんだ。」

「あぁ、よくある頭でっかちな感じですか?」

「まあ、そうかなあ。この前、一緒にしゃべってみた感じだと、頭が悪いというわけではないんだけど。。。」

「ほー。」

「それで、実際に引き受けるかどうかを決める前に、面倒を見るかもしれない君が、ほかの実習を担当したことがあるXXXにあって、どういうやつだったか話を聞いてきてほしんだ。」

「??」

「いやほら、AAAはもう学生二人面倒見てるし、BBBは今度来る博士課程の学生の面倒を見させようと思っているし、プロジェクトが関連あるCCCは入院でいつ戻ってくるかわからないし、、、君ならまだ何とか回せるんじゃないかなあと思って。。。」

「あのー、そのー、修士論文のプロジェクトってそんなに引き受けないといけないんでしょうか。。。人手が足りないなら、評判がよろしくない学生まで引き受けなくても。。。」

「いや、まあ、研究科で誰かが引き受けないと、彼は確かに卒業できなくなっちゃうけど、別にうちが引き取らないといけないといけないことはないよ。でも、うちの分野なかなか学生に人気がなくて、僕のラボではまだ修士論文をまとめたことがないんだ。それってほら、あんまりよくないっていうか。。。」

「・・・」

自分のプロジェクトとほとんど関係ない話だから、あまり関わりたくなかったが、この後いろいろ丸め込まれて、とりあえず4週間は面倒を見る羽目になってしまった。やれやれ。自分のプロジェクトが割を食ってあまり遅くならないようにしないと。こちらの修士論文だと、ぴったり6か月以内で書き上げるところまでいかないといけないらしく、なかなかプロジェクトの選定も難しい様だ。日本だと、授業やら就活やらいろいろはさみながらも2年間は従事することが多いかと。

しかし、あたりまえのように学生の身辺調査をやるところがちょっと驚き。このあと、XXXに連絡を取ってみると、ごく当たり前のようにその学生がどんな奴だったのかを教えてくれた。修士の学生は実習でいろんなラボを回っているが、そのたびにこうやって評判が一つずつ積もっていくというわけか。こりゃ、ある意味緊張感あるなぁ。おそらく、今度来る学生は各所での評判が芳しくなく、どのラボも修士の研究としては受け付けなかったようだ。ということは、僕の評判もあちらこちらで積もっていて、何かを始めようというときには、裏でこそこそ情報交換されているということか・・・わぁお。